不動産売買契約における契約不適合責任免責特約の注意点

不動産の売買契約において大きなトラブルにつながりやすいものの1つに「契約不適合責任」の問題があります。

実務上、売主の契約不適合責任を免責する特約が定められていることがありますが、契約当事者の属性や契約内容によっては、そのような特約が無効と判断されてしまい、より深刻なトラブルに発展してしまうケースも見受けられます。

そのため、本記事では、どのような場合に売主の契約不適合責任を免責する特約が有効とされるのか、という点について解説します。

契約不適合責任とは?

売買契約の目的物が、種類、品質又は数量に関して、契約の内容に適合しないものである場合に、売主が買主に対して負う責任を契約不適合責任といいます。

不動産の売買契約の場合には、以下のような場合に契約不適合が認められる可能性があります。

  • 建物を建築する目的で土地を購入したところ、軟弱地盤であることが判明したため地盤改良工事に多額の費用がかかる場合や、土壌汚染があることが判明したため、汚染調査や土壌改良に多額の費用がかかる場合
  • 建物を購入したところ、雨漏りやシロアリ被害があることが判明した場合

ただし、契約不適合責任が発生するのは、あくまで「契約の内容に適合しないもの」である場合に限られます。

そのため、例えば、売買契約の前に売主が買主に対して、「建物のこの部分には雨漏りが発生している」ということを説明した上で、買主がそれを了解して売買契約を締結している場合には、「雨漏りがある建物を売買する」という契約内容であるため、売主が契約不適合責任を負うことはありません。

実務的には、いわゆる中古建物の売買契約などの場合に、売主が不具合箇所の有無や内容を説明する物件状況報告書を作成し、仲介業者を通じて買主に交付することで、売主に契約不適合責任が発生しないようにしています。

契約不適合責任を免責する特約の可否

原則

上記のとおり、土地や建物に売買契約の前提となっていなかった不具合があることが判明した場合、売主は契約不適合責任を負うのが原則ですが、契約不適合責任は任意規定であるため、当事者の合意(特約)により免責することができます。

売主が宅建業者の場合

ただし、売主が宅建業者、買主が非宅建業者の場合には、売主の契約不適合責任を免除する特約は認められず、引渡しから2年間は、種類・品質について契約不適合責任を負わなければなりません(宅建業法40条)。

※この場合でも、数量については契約不適合責任の免責することが可能です。

これに対して、売主・買主がともに宅建業者である場合には、契約不適合責任を免責することも可能です(宅建業法78条2項)。

宅地建物取引業法

第40条(担保責任についての特約の制限)

1 宅地建物取引業者は、自ら売主となる宅地又は建物の売買契約において、その目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任に関し、民法(明治二十九年法律第八十九号)第五百六十六条に規定する期間についてその目的物の引渡しの日から二年以上となる特約をする場合を除き、同条に規定するものより買主に不利となる特約をしてはならない。

2 前項の規定に反する特約は、無効とする。

 

第78条(適用の除外)

1 この法律の規定は、国及び地方公共団体には、適用しない。

2 第三十三条の二及び第三十七条の二から第四十三条までの規定は、宅地建物取引業者相互間の取引については、適用しない。

 

売主が事業者・買主が消費者の場合

また、売主が非宅建業者ではない事業者で、買主が消費者の場合には、消費者契約法により契約不適合責任を全て免除する特約は無効と判断されてしまうため注意が必要です。

詳しくはこちら→ 不動産売買契約における契約不適合責任と消費者契約法

 

整理

以上を整理すると、以下のようになります。

 売主
非宅建業者・非事業者非宅建業者・事業者宅建業者
買主非宅建業者・非事業者×
非宅建業者・事業者×
宅建業者

 

〇:免責可

△:免責不可(消費者契約法の適用あり)

×:免責不可(宅建業法の適用あり)

※ なお、上記のほか、新築住宅に関する契約不適合責任については、住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)による制限もあるため注意が必要です。

 

契約不適合責任の免責特約を定めても免責が認められない場合

上記のような免責特約を定めていた場合でも、売主が契約不適合があることを知りながら、売買契約に際して買主に説明していなかったものについては、契約不適合責任を免れることはできません。

民法

第572条(担保責任を負わない旨の特約)

売主は、第五百六十二条第一項本文又は第五百六十五条に規定する場合における担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることができない。

 

免責特約が無効とされた場合における売主の責任

売主が契約不適合があることを知りながら告げていなかったために契約不適合責任を免れることができない場合や、宅建業法・消費者契約法により免責特約が無効となった場合、売主は、民法の原則通りの契約不適合責任を負うことになります。

そのため、売主は、①買主が契約不適合の内容を知った時から1年または②不動産を買主に引き渡した日から10年のいずれか早い時点まで、契約不適合責任を負い続けなければならないことになってしまいます

※仮に買主が引渡しから10年以内に売主に不適合の事実を通知した場合には、売主はそこから5年の間、契約不適合責任を負うことになります。

 

まとめ

以上のように、契約不適合責任を免責する特約を定めた場合でも、免責の効果が生じない結果、売主が長期間にわたり契約不適合責任を負わなければならなくなる可能性があります。

そのため、不動産売買契約において契約不適合責任の免責特約を定める場合の有効性や、中古物件について物件状況報告書を作成する場合の記載内容等については慎重に検討する必要があります。 当事務所では、不動産売買契約に関するアドバイスやリーガルチェックを行っておりますので、ご不明な点がある方はお気軽にご相談ください。

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