共有不動産の分割方法(共有物分割による共有関係の解消)
不動産の所有者が亡くなって相続が発生したような場合に共有関係が生じることがあります。
共有関係が生じたとしても、共有者全員が仲良く不動産を利用できていれば特に問題は起きませんが、共有者の一部の者のみが不動産を使用し、他の共有者には使用の対価等も一切支払われていないような場合には、共有者間において対立関係が生じるケースがあります。
本記事では、共有状態となった不動産について、共有関係を解消するための方法や留意点について解説します。
なお、相続の発生後、遺産分割が完了していない場合には、本記事で解説する共有物分割請求を行うことはできず、まずは遺産分割を行う必要があります(ただし、相続開始から10年が経過した場合には、遺産分割が未了の状態であっても、共有物分割請求ができる場合があります。)。
Ⅰ 共有物分割のニーズ
(1) 共有物を使用できない共有者
他の共有者が共有不動産を独占的に使用している場合、共有不動産を使用できない共有者としては、共有持分という権利は持っているものの、実際にはその権利による利益を何も享受することができません。
(特に、親族間で共有している場合には、過去の経緯から黙示の使用貸借契約が成立していると評価される結果、共有物の使用の対価を請求することもできない場合があります。)
また、共有持分権は、他の共有者の承諾を得ることなく、第三者に対して自由に売却できるのが原則ですが、そのような権利を買い取ってくれる第三者を見つけるのは困難ですし、仮に見つけられたとしても二束三文の値段しかつかないのが通常です。
そこで、共有物を利用できない共有者としては、他の共有者に対して、自分の共有持分を買い取らせたり、共有不動産を第三者に売却した上で、その売却代金のから自分の共有持分に相当する分を回収することで、自分が持っている共有持分権の価値を現実化したいというニーズが生じます。
(2) 共有物を使用している共有者
他方、現実に共有不動産を使用している共有者としても、その不動産が共有状態のままでは完全に自由な利用をすることはできません(例えば、共有物の管理行為については、共有持分の過半数による賛成を得なければ行うことができません。)。
民法
第252条(共有物の管理)
1 共有物の管理に関する事項(次条第一項に規定する共有物の管理者の選任及び解任を含み、共有物に前条第一項に規定する変更を加えるものを除く。次項において同じ。)は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。共有物を使用する共有者があるときも、同様とする。
(以下、略)
また、共有状態を放置しておくと、共有者にさらに相続が発生して共有者の人数が増えてしまい、実際に共有関係を解消しようと考えたときには、当事者が多すぎて手続が非常に煩雑になってしまう可能性もあります。
そのため、実際に共有不動産を使用している共有者にとっても、共有関係を解消することには大きなメリットがあります。
Ⅱ 共有物分割請求とは?
(1) 裁判外の分割請求
民法上、各共有者は、分割禁止の合意がある場合を除き、いつでも共有物の分割を請求することができるのが原則です(民法256条1項)。
民法
第256条(共有物の分割請求)
1 各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。ただし、五年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない。2 前項ただし書の契約は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から五年を超えることができない。
そのため、共有者は、分割禁止の合意がなければ、他の共有者に対して、いつでも「自分の共有持分を買いってくれ」とか「共有物を共同で売却して代金を共有持分に応じて分けてくれ」といった要求をすることができます。
ただ、このような要求をされた共有者としても、この要求に応じる義務があるわけではないため、納得できなれば拒否することが可能です。
なお、協議による分割の場合には、分割の方法について特に制限はありません。
(そのため、裁判による分割(下記(2)参照)とは異なり、現物分割が可能であっても、第三者に売却した上でその代金を共有持分に応じて分割することも可能です。)
(2) 裁判による分割請求
共有物の分割について、共有者間で協議が調わない場合やそもそも協議をすることができない場合には、共有物分割訴訟を提起して、共有関係の解消を求めることができます。
民法
第258条(裁判による共有物の分割)
1 共有物の分割について共有者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、その分割を裁判所に請求することができる。
2 裁判所は、次に掲げる方法により、共有物の分割を命ずることができる。
一 共有物の現物を分割する方法
二 共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法
3 前項に規定する方法により共有物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。
4 裁判所は、共有物の分割の裁判において、当事者に対して、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができる。
裁判による分割の場合、裁判所は、原則として、①現物分割または②賠償分割(いわゆる全面的価額賠償)による分割をしなければなりません(民法258条2項)。
ただし、現物分割や賠償分割ができない場合や、現物分割をすると共有物の価値が著しく減少するおそれがある場合には、③換価分割(共有物を競売した上で、その売却代金を共有持分に応じて分割する方法)をすることができます。
なお、複数の共有不動産がある場合には、例えば、2つの土地を各共有者が1つずつ取得して分割したり、2つの土地を各共有者が1つずつ取得するが、それぞれの土地の評価に差があるため、一方から他方にその差額分を支払うことにより分割することもあります。
(3) 賠償分割(全面的価額賠償)における留意点
実務上、共有物を現実に使用している共有者からは、②賠償分割(全面的価額賠償)による分割をするべきとの主張がされることがよくあります。
もともと②賠償分割(全面的価額賠償)は、判例(最判平成8年10月31日民集50巻9号2563頁)によって認められ、令和3年の民法改正によって明文化された分割方法です。
現行法の条文上、賠償分割を行うための要件については特に規定されていませんが、上記最判平成8年10月31日においては、以下のような「特段の事情」が認められる場合に限り、賠償分割(全面的価額賠償)が認められると判示されており、この考え方については、現行法においても妥当すると解されています。
(ⅰ)共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であると認められること
(ⅱ)価格が適正に評価され、共有物を取得する者に支払能力があり、他の共有者にその持分価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないこと
そして、上記最判平成8年10月31日は、上記(ⅰ)・(ⅱ)の判断に当たっては、以下の諸事情を総合的に考慮すべきであると判示しています。
・共有物の性質・形状
・共有関係の発生原因
・共有者の数・持分の割合
・共有物の利用状況
・分割された場合の経済的価値
・分割方法についての共有者の希望・その合理性の有無
したがって、賠償分割を求めたい場合や、相手方が賠償分割を希望しているが応じたくない場合には、上記のような諸事情を踏まえて、賠償分割が妥当であるかにつき主張する必要があります。
また、賠償分割を行う場合には、当該共有物の評価が大きな争点となります。
一般的に、双方が主張する評価額に大きな隔たりがある等の理由で和解による解決が難しい場合には、裁判上の鑑定が行われるケースが多いと思われます。
他方で、実務的には、裁判上の鑑定までは行わず、双方が不動産業者等から査定書を取得した上で、その金額をベースとして和解協議を行い、金額面で折り合いがつけば和解による解決を図ることも少なくありません。
(4) 例外的に共有物分割請求が認められない場合
上記のとおり、共有物分割訴訟を提起することにより、何らかの形で共有関係を解消することができるのが通常ですが、例外的に、共有物分割請求が権利の濫用に当たるとして認められない場合があります。
例えば、建物の通路として現に使用されている共有私道について共有物分割請求がされた場合のように、そもそも共有関係を解消することが想定されておらず、共有関係を解消する合理性も認められないようなケースや、共有物分割がされることにより、共有者の一方に過大な不利益が生じてしまうようなケースにおいて、権利濫用と判断される可能性があります。
Ⅳ まとめ
以上のとおり、共有者に対して共有関係の解消を求めようとする場合には、共有不動産の価格や形状、道路付けの問題、最終的に訴訟になったときの見通し等、様々な事情を考慮して、適切な共有物分割の方法を提案する必要があります。
特に、親族間において共有物分割の問題が生じる場合には、当事者間に感情的な対立が生じていることが少なくありません。このような場合には、当事者同士で話し合いを行ったとしても合理的な解決に至る可能性は非常に低いため、弁護士による交渉や訴訟による解決を図ることが適切である場合が多いと思われます。
当事務所では、権利関係や共有状態が発生した経緯が複雑な事案も含め、共有物分割に関する案件を取り扱っておりますので、共有関係の解消をお考えの場合には、ぜひ一度ご相談ください。