不動産売買契約における契約不適合責任と消費者契約法
不動産の売買契約についても、事業者と消費者の取引であれば消費者契約法が適用されることになります。
本記事では、売主が宅建業者ではない事業者、買主が非事業者(一般の消費者)であり、不動産の売買契約に消費者契約法が適用される場合における契約不適合責任の問題について解説します。
消費者契約法が適用される取引
不動産の売買契約において、売主が宅建業者、買主が非宅建業者の場合には、宅建業法により、種類又は品質に関する契約不適合責任につき、引渡しの日から2年以上となる特約を除き、民法の原則よりも買主に不利な特約を定めても無効とされてしまいます(宅建業法40条)。
これに対して、売主が会社等の事業者であっても、宅建業者でなければ宅建業法40条は適用されません。
ただし、売主が事業者、買主が消費者である場合、この売買契約には消費者契約法が適用されることになります。
消費者契約法における「消費者」とは「個人」を意味しますが、事業として又は事業のために当該契約をした個人は「消費者」には当たりません。
消費者契約における契約不適合責任免責特約の可否
民法が定める契約不適合責任の条項は任意規定であるため、契約当事者間の合意(特約)により、適用を排除したり、内容を修正することができるのが原則です。
しかし、上記のような消費者契約法が適用される売買契約(消費者契約)の場合、事業者である売主が契約不適合責任を一切負わない旨の特約を定めたとしても、消費者契約法により無効となってしまいます(消費者契約法第8条1項1号)。
消費者契約法
第8条(事業者の損害賠償の責任を免除する条項等の無効)
1 次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。
一 事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項(以下、略)
これに対して、契約不適合があった場合に、売主が修補のみ行う、または代金減額のみ行う(修補は行わない)という特約については、消費者契約法上も有効です(消費者契約法第8条2項1号)。
消費者契約法
第8条(事業者の損害賠償の責任を免除する条項等の無効)
2 前項第一号又は第二号に掲げる条項のうち、消費者契約が有償契約である場合において、引き渡された目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないとき(略)に、これにより消費者に生じた損害を賠償する事業者の責任を免除し、又は当該事業者にその責任の有無若しくは限度を決定する権限を付与するものについては、次に掲げる場合に該当するときは、前項の規定は、適用しない。
一 当該消費者契約において、引き渡された目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないときに、当該事業者が履行の追完をする責任又は不適合の程度に応じた代金若しくは報酬の減額をする責任を負うこととされている場合
(以下、略)
これは、民法が定める救済方法のうち、いずれかの方法で消費者である買主の利益が保護されるのであれば、それ以外の救済方法を選択することができなくても、消費者の正当な利益が害されているとはいえないため、当該条項を無効とする必要はないと考えられるためです。
消費者契約における解除権の放棄条項
また、契約不適合が発見されたため、買主が売主に対して、一定の期間を定めて修補や代金減額を求めたにもかかわらず、その期間内に売主がこれらに応じない等の場合には、買主は、売買契約を解除できるのが民法上の原則です。
この点に関して、売主が事業者、買主が個人の消費者契約である場合には、契約不適合があった場合に買主が売買契約を解除できない旨の特約(買主が解除権を放棄する特約)を定めた場合としても、消費者契約法により無効とされます(消費者契約法第8条の2)。
消費者契約法
第8条の2(消費者の解除権を放棄させる条項等の無効)
事業者の債務不履行により生じた消費者の解除権を放棄させ、又は当該事業者にその解除権の有無を決定する権限を付与する消費者契約の条項は、無効とする。
消費者契約における契約不適合責任期間
それでは、契約不適合があった場合、売主は修補または代金の減額に応じなければならないが、その責任期間を、例えば「引渡日から3か月以内」などと定めることができるのでしょうか。
この点、消費者契約法10条は、民法の規定と比較して消費者である買主の権利を制限する条項で、民法の信義誠実の原則に反して消費者の利益を一方的に害するものについては無効とすると定めています。
消費者契約法
第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。
そして、民法上、買主は、契約不適合があると知った時から1年以内であれば契約不適合責任を追及できるのが原則です(ただし、契約不適合があると知った時から5年間、または引渡しから10年間が経過した場合は、消滅時効により契約不適合責任を追及することができません。)。
そのため、「知った時から1年」(最長で引渡しから10年間)という民法の原則と比較して、どの程度の期間であれば、「信義誠実の原則に反して消費者の利益を一方的に害する」ことにならないかが問題となります。
具体的に「〇年以上であれば有効」という明確な基準があるわけではありませんが、裁判例では、土地の売買契約において、民法改正前の瑕疵担保責任期間を「引渡日から3か月以内」とする特約を消費者契約法第10条により無効と判断した事案があります(東京地判平成22年6月29日)。
この裁判例は、あくまで当該事案における事情を前提として、瑕疵担保責任期間を「引渡日から3か月以内」とする特約は、民法の信義誠実の原則に反して買主の利益を一方的に害すると判断したものであり、不動産売買契約において「引渡日から3か月以内」という特約を定めた場合に、必ずしも消費者契約法第10条により無効と判断されるわけではないと考えられます。
もっとも、万が一、契約不適合責任期間に関する特約が無効と判断されてしまった場合には、売主は民法の原則通りの期間(買主が知った時から1年間、最長10年間)につき契約不適合責任が認められてしまい、非常に大きなリスクを負うことになってしまいます。
そのため、消費者契約法が適用される売買契約の場合、実務上は、契約不適合責任期間について「引渡日から1年以内」と定めておくケースが多く見られます。
上記のとおり、「引渡日から1年以内」であれば消費者契約法上問題がないという保証はないものの、通常の取引であれば、引渡しから1年程度の期間があれば、買主にとっても契約不適合の調査等を行うことができる場合が多いと思われます。
また、宅建業者が売主、非宅建業者が買主の売買契約であっても、契約不適合責任期間は「引渡日から2年以内」とすることが認められていることからすれば、宅建業者ではない事業者が売主の場合に、契約不適合責任期間を「引渡日から1年以内」とすることが不合理とまではいえないものと考えられます。
(もちろん、買主が引渡日から1年以内に契約不適合を発見することが困難といえるような特別な事情が認められる場合には、契約不適合責任期間を「引渡日から1年以内」とする特約が消費者契約法第10条により無効と判断されることも十分考えられると思われます。)
まとめ
契約不適合責任に関する特約をする場合、仲介業者としても、宅建業法や品確法による制限については正しく対応しているものの、売主が宅建業者ではない事業者の場合に消費者契約法の適用を考慮することなく売買契約書を作成してしまっているケースが見受けられます。
上記のように、消費者契約法による規制を見落としてしまった結果、契約不適合責任が民法の原則通りとなってしまうと、売主が被る不利益が大きいため、売買契約書の作成に当たっては、これらの点についても慎重に検討する必要があります。
当事務所では、不動産売買契約に関するアドバイスやリーガルチェックを行っておりますので、ご不明な点がある方はお気軽にご相談ください。