非上場会社におけるスクイーズアウト~特定の株主のみ締め出す場合の実務対応~

非上場会社においてスクイーズアウトを行う場合、その主たる目的は、会社と対立する少数株主を排除するという点にあるのが通常と思われます。

もっとも、上場会社と異なり、非上場会社の株主は、単なる株式投資の経済的なリターンだけではなく、会社経営への関与に重点を置いていることも少なくありません。

そのため、非上場会社においては、そもそも多数派(経営陣等)が一方的に少数株主の地位を奪うことを認めてよいのか、認めるとしても「正当な事業目的」を要求する等、一定の制約が必要なのではないかという議論があります。

そこで、本記事では、近時の裁判例の動向を踏まえて、非上場会社において会社と対立する少数株主の排除を目的してスクイーズアウトを行う場合の留意点について解説します。

スクイーズアウトの手続や一般的な留意点についてはこちら→ 非上場会社におけるスクイーズアウト(少数株主の締め出し)の手続と留意点

 

Ⅰ 非上場会社におけるスクイーズアウトの問題点

もともとスクイーズアウトは、上場会社(公開会社)の買収に際して、残存する少数株主を締め出すために行うことが想定されていました。

このような買収(いわゆるMBO:Management BuyoutやLBO:Leveraged Buyout等)は、買収後の株式を経営陣や投資ファンド等に集中させることにより企業価値を高めることを目的として行われるため、少数株主を締め出すことに事業上の必要性・合理性が認められるのが通常です。

また、そもそも上場会社の場合には、株主の関心事は株式投資のリターン(経済的な利益)にあり、株主であること自体には重きを置いていないのが通常です。

そのため、学説上も、上場会社におけるスクイーズアウトについては、締め出される少数株主に適正な対価さえ交付されていれば、スクイーズアウトすること自体が法的に問題であるとは考えられていません。

 

これに対して、非上場会社(非公開会社)の株主は、単なる経済的なリターンのみならず、会社経営への関与自体に大きな価値を見出していることが少なくありません。

そのため、学説上、非上場会社の場合には、経営陣と対立する少数株主を締め出すという目的以外に正当な事業目的が認められないスクイーズアウトについては、特別利害関係人の議決権行使によって「著しく不当な決議」がされたものとして株主総会決議に取消事由が認められる、またはスクイーズアウトが無効になる、という見解が有力に主張されています(江頭憲治郎『株式会社法 第8版』162頁等)。

 

Ⅱ 裁判例の動向

(1)東京地判平成22年9月6日判タ1334号117頁

【事案の概要】

非上場会社であるY社(被告)は、全部取得条項付種類株式を用いて、大株主であるA社を完全親会社、Y社を完全子会社とすることを目的として、普通株式に全部取得条項を付した上で、全部取得条項付種類株式(旧普通株式)をY社が取得する旨の臨時株主総会決議・種類株主総会決議を行った。

これに対して、上記各決議によりスクイーズアウトされることになるX(原告)が、以下のような訴えを提起した。

(なお、実際には原告適格や取締役の説明義務違反による決議取消の可否についても争点となっているが、これらについては省略。)

 

① 上記各決議と特別の利害関係のあるA社の議決権行使により著しく不当な決議がなされたとして、会社法831条1項3号に基づく各決議の取消請求

② 上記各決議の内容が全部取得条項付種類株式制度を利用した法の趣旨を逸脱するものであるとして、会社法830条2項に基づく各決議の無効確認請求

③ 上記各決議の内容が株主平等原則(会社法109条2項)に違反するとして、会社法830条2項に基づく各決議の無効確認請求

 

【判決要旨】

裁判所は、以下のように判示して、Xの請求をいずれも棄却しました。

・① 「著しく不当な決議」に当たるか

全部取得条項付種類株式制度を規定した会社法の各条項が、「多数決により公正な対価をもって株主資格を失わせることを予定していることに照らせば、単に会社側に少数株主を排除する目的があるというだけでは足りず、同要件(注:「著しく不当な決議」)を満たすためには、少なくとも、少数株主に交付される予定の金員が、対象会社の株式の公正な価格に比して著しく低廉であること」が必要である

しかし、本件でXに交付される予定の金額が著しく低廉であるとまではいえないため、「著しく不当な決議」には当たらない。

 

・② 全部取得条項付種類株式制度の趣旨に反するか

「全部取得条項付種類株式制度については、倒産状態にある株式会社が100%減資する場合などの「正当な理由」がある場合を念頭に導入が検討されたという立法段階の経緯があるにしても、現に成立した会社法の文言上、同制度の理由に何らの理由も必要とされていないこと、取得決議に反対した株主に公正な価格の決定の申立てが認められていること(会社法172条1項)に照らせば、多数決により公正な対価をもって株主資格を失わせること自体は会社法が予定しているというべきであるから、Y社に少数株主を排除する目的があるというのみでは、同制度を規定した会社法108条1項7号、2項7号、171条ないし173条の趣旨に違反するとはいえない。」

 

・③ 株主平等原則に違反するか

本スキームは、「最終的にA社のみがY社の株式を取得し、それ以外の少数株主には現金を交付する結果となるものの、本件各決議自体は、Y社の筆頭株主であったA社も含め、本件各決議の当時のY社の普通株主らに対し、普通株式1株当たりA種種類株式12万3860分の8株を交付することを内容とするものであり、株主平等原則に違反するとはいえない。

 

 

(2)京都地判令和3年1月29日

【事案の概要】

非上場会社であるY社(被告)の総議決権数の1/3をX(原告)、2/3をA社が保有している状況において、Y社がXを排除することを目的として、普通株式に全部取得条項を付した上で、全部取得条項付種類株式をY社が取得する旨の臨時株主総会決議・種類株主総会決議を行った。

これに対して、Xが以下のような訴えを提起した。

① 上記各決議と特別の利害関係のあるA社の議決権行使により著しく不当な決議がなされたとして、会社法831条1項3号に基づく各決議の取消請求

② 上記各決議の内容が実質的な株主平等原則に違反するとして、会社法830条2項に基づく各決議の無効確認請求

(このほか、各総会における代表取締役の説明義務違反があるとして、会社法831条1項1号に基づく決議取消しも主張されているが、これについては省略。)

 

【判決要旨】

裁判所は、以下のように判示して、Xの請求をいずれも棄却しました。

 

・①「著しく不当な決議」に当たるか

Xが株主権を喪失すること自体は、本件各決議によりXがスクイーズアウトされることの当然の帰結であり、Y社からすれば、当時、Xが敵対的株主として具体的に行動していたといえるのであるから、敵対的株主となったXにY社の取締役会議事録が開示されることを回避しようとしていたことをもって直ちに不当とまでいうことはできない。

したがって、本件各決議については、「Xが主張するような目的の不当性を基礎付ける事情は相応に認められるものの、このような目的の不当性を否定する事情もうかがわれるところであり、いわゆる全部取得条項付種類株式の取得制度を利用して少数株主を排除するに当たって目的の正当性は法律上の要件とされていないことも併せ考慮すると、本件各決議の目的が不当であることを根拠に、これが『著しく不当な決議』に該当するとまでは認めることはできない」。

 

なお、本事案におけるスクイーズアウトは、以下のような事実関係の下で行われたものであったと認定されています。

・Xは、当時の経営陣が私的な利益を得るために不当な取引を行っているのではないかとの疑いを持ち、Y社に対して、各取引の具体的な内容について回答を求めるとともに、取締役会議事録や稟議書等の開示を求めたが、Y社はこれを拒否した。

・そこで、Xが裁判所に対して、会社法371条4項に基づき、取締役会議事録の閲覧謄写の許可を申し立てたところ、裁判所はXによる許可申立てを認める決定をした。

・本件各総会は、上記閲覧謄写の許可決定が出る10日前に招集が通知され、同許可決定後に開催されたものであった。

・本件各総会の決議によりXがスクイーズアウトされた結果、XはY社の株主ではなくなったことから、上記閲覧謄写の許可決定は取り消された。

 

そのため、本事案は、Y社ないし経営陣が、株主であるXから不正な会社運営に関する追及を受けることを避ける目的で、Xをスクイーズアウトしようとしたことが疑われる事案でした。

実際に、判決の中でも、スクイーズアウトについて決定した本件各決議の目的には、Xが問題視していた取引に関する取締役会議事録がXに開示されることを回避し、ひいてはXが株主代表訴訟を提起するなどして、Y社の取締役らが責任を追及されることを回避することが含まれていたと考えるのが自然であるとして、本件各決議の目的の不当性を基礎づける事情が認められるとされています。

他方で、当該取引については、(経営判断としての妥当性は別として)経営陣の私的な利益のために行われたものではなく、Y社の利益のために行われた可能性も否定できないこと、スクイーズアウトについては、Xが当該取引を問題視するよりも前から準備が進められていたこと等から、本件決議が専らXが当該取引に関連して株主代表訴訟を提起する権利を行使することを阻害する意図で行われたとまではいい難いとも判示しています。

その上で、裁判所は、スクイーズアウトの目的が「不当」とまでは断定できないことに加え、全部取得条項付種類株式の取得制度を利用して少数株主を排除するに当たって目的の正当性は法律上の要件とされていないことを考慮して、本件各決議の目的が不当であることを根拠に、これが『著しく不当な決議』に該当するとまでは認めることはできないと判示しています。

したがって、本事案では、目的の正当性が法律上の要件とはされていないと指摘しつつも、スクイーズアウトの目的が不当であることが、「著しく不当な決議」の判断に影響を与え得ることが示唆されています。

 

・② 株主平等原則に違反するか

本件各決議は、普通株式1株当たりA種種類株式を500分の1の割合で交付するものであり、特定の株主を不平等に扱うものではない。

「そもそも全部取得条項付種類株式の取得制度を用いたスクイーズアウトについては、何らの理由ないし目的も要件とはされていないのであり、多数決により公正な取得価格を対価として特定の株主をスクイーズアウトすること自体は法の予定するところというべき」である。

したがって、本件各決議が株主平等原則に実質的に違反し、無効であるとは認められない。

 

 

(3)札幌地判令和3年6月11日金判1624号24頁

【事案の概要】

非上場会社であるY社(被告)が、株式1569株を1株に併合する旨の臨時株主総会決議を行った。

これに対して、Y社の株式1500株を保有していたX(原告)が以下のような訴えを提起した。

① 上記決議の内容が株主平等原則(会社法109条1項)に違反するとして、会社法830条2項に基づく各決議の無効確認請求

② 特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって著しく不当な決議がなされたとして、会社法831条1項3号に基づく各決議の取消請求

(その他、事前開示手続等の不履行や端数処理の不設定の点で法令違反があるとの主張もされたが、これらについては省略。)

なお、上記決議当時、Y社には、Xを含めて6名の株主がいたところ、上記決議によってスクイーズアウトされるのはXのみであった。

また、Y社は、Xから上記訴訟を提起された後、裁判所に対して、会社法235条2項・234条2項に基づき、上記株式併合によって生じる1株未満の端数の売却許可を申し立て、裁判所から上記端数の合計1株に相当する株式を1株2832万8874円で任意売却することを許可する旨の決定を受けて、Y社がこれを買い取った。

 

【判決要旨】

裁判所は、以下のように判示して、Xの請求をいずれも棄却しました。

 

・① 株主平等原則に違反するか

「株式の併合について、会社法は、株式の併合を必要とする理由を株主総会において説明しなければならないと規定するのみで(会社法180条4項)、併合の理由の内容、当否等については条文上何らの制限も設けられていない。そして、株式の併合により、少数株主の持ち株数が1株に満たなくなり、株主としての地位を失うという結果が生じること自体は、会社法が予定しているものというべきであって、株式の併合が少数株主の締め出しを目的としているからといって、直ちに同条の趣旨に反するということはできない。」

「現に、会社法においては、平成26年法律第90号による改正により、①事前開示手続(会社法182条の2)、②事後開示手続(同法182条の6)、③株主による差止請求の制度(同法182条の3)及び④反対株主による株式買取請求の制度(同法182条の4)が設けられたが、これらの整備は、少数株主の締め出しを目的とした株式の併合であっても直ちに会社法の趣旨に反するわけではないことを前提に、締め出される少数株主の保護を図り、もってその衡平性を担保しようとしたものとも解されるところである。」

「また、株主平等原則は、株式会社において、株主を『その有する株式の内容及び数に応じて』平等に取り扱わなければならないというものであるところ(同法109条1項)、本件決議により本件株式併合は、全株式について一律に一定の割合で併合の対象とするというものであり、その効果は全株主に生じるものであって、まさに『その有する株式の内容及び数に応じて』平等に取り扱うものにほかならない。」

したがって、株主平等原則違反により本件決議が無効になるとは認められない。

 

・②「著しく不当な決議」に当たるか

「本件株式併合は、会社経営の転換期を迎えたY社において、その意思決定を円滑かつ迅速に進めるため、Xを株主から排除し、安定株主による会社支配権を確立することを目的として行われたものと認めるのが相当であって、これ自体、正当な事業目的ではないとまではいえない。」

したがって、本件株式併合について正当な事業目的がなく、単にY社代表者の個人的感情に基づいて行われたということはできないから本件決議が「著しく不当な決議」に該当するとはいえない。

 

 

Ⅲ 実務対応

(1) スクイーズアウトの目的について

上記のとおり、裁判例では、非上場会社における少数株主の締め出しを目的としたスクイーズアウトであっても、直ちに株主総会決議の無効・取消しが認められるわけではなく、少数株主のうち特定の株主のみを狙い打ちにしてスクイーズアウトする場合であっても有効と判断されています。

ただし、上記京都地判や札幌地判の事案では、スクイーズアウトの目的が不当である/正当な事業目的ではないといえるかという点が正面から争点として取り上げられています。

このように、裁判所としても、スクイーズアウトの目的については重要な判断要素と考えていることがうかがわれることからすると、実務的には、特定の株主を排除すること以外に正当な業務上の目的が存在することや、特定の株主を排除することが会社の円滑な運営にとって必要かつ合理的であることを主張・立証できるようにしておく必要があると考えられます。

 

(2) 対価の不当性について

また、目的の不当性以外に、スクイーズアウトにおいて少数株主に交付される対価が著しく不当である場合に決議取消事由になるか、という問題もあります。

この点に関して、上記東京地判の事案(全部取得条項付種類株式を用いたスクイーズアウトの事案)において、「少なくとも、少数株主に交付される予定の金員が、対象会社の株式の公正な価格に比して著しく低廉であることを必要とする」という考え方が示されていることからすると、スクイーズアウトにおいて少数株主に交付される対価が著しく低廉であるような場合には、スクイーズアウトに関する決議の取消しが認められる余地があると考えられます(大阪地判平成24年6月29日判タ1390号309頁等でも上記東京地判と同様の考え方が示されている。)。

他方で、上記札幌地判の事案(株式併合を利用したスクイーズアウトの事案)では、株式の併合については、株式の併合について決議する株主総会とは別途の手続によって株式の価格を定めるものとされており、後に定められた金員の額の多寡によって本件決議が遡及的に「著しく不当な決議」となるわけではないと判示されています。

たしかに、株式併合の手続とその後に行われる端数相当株式の売却許可決定の手続とは別個の手続であり、端数相当株式の売却許可決定において定められた(併合後の)1株当たりの価格が低廉であるからといって、株式併合の効力に影響を与えることはないと考えられます。

しかし、併合後の1株当たりの価格が同じであっても、併合割合をどのように設定するかによって、最終的に特定の株主に交付される対価の額が変動し得ることからすると、会社が決定した併合割合に合理性がなく、特定の株主に著しい不利益が生じるような場合には、「著しく不当な決議」に当たると判断される余地があると思われます。

 

したがって、実務的には、最終的にスクイーズアウトされる株主に交付される対価が著しく低廉にならないような併合割合や全部取得条項付種類株式の取得対価の割合を設定する等の対応が必要と考えられます。

 

Ⅳ まとめ

以上のとおり、非上場会社においてスクイーズアウトを行う場合には、スクイーズアウトの目的や対価の妥当性を理由として、スクイーズアウトの有効性を争われることが少なくありません。

当事務所では、最新の裁判例や学説の動向も踏まえて、非上場会社においてスクイーズアウトを適法に行うためのサポートを提供しておりますので、少数株主対策としてスクイーズアウトを検討されている場合には、是非お気軽にご相談ください。

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